ゴルフはいいから、オペラのパトロンやってよ
手塚 究極的には、個人の趣味ですべてを通さないとダメなんでしょうね。大衆が支えるということになると、最終的にはモーニング娘。の世界になってしまう。
井上 日本の政治みたいになっちゃう。
一同 そうそう。
手塚 ある人が、「俺はどうしてもこれがいいんだ」と言って、パトロンとして全額自分で負担するっていうから成立している世界。ルードヴィッヒ2世の時代からこれは真理。
池原 口をあまり出されるとどうかというところもあるけれど。
手塚 孫正義も、自宅の地下のハイテクゴルフ練習場はいいから……新国立劇場の方に少し出してもらえないかなっていうことですよね。日本の悪いところは箱モノを作るのには膨大なお金をかけるんだけれど、ソフトの方まで息が続かないというところがあるよね。
池原 各県の、美術館とコンサートホールの現在の惨状というのがありますね。むかしバブルのころにバンバン建てたやつ・・・。
手塚 日本全県にパイプオルガンのある立派なコンサートホールがあって、結局そこでみんなで市民カラオケ大会をやってるわけですよ。
池原 しょせん、異文化だからしょうがないところがありますが。
手塚 それだったら、村の衆が歌舞伎をやるような劇場を建てればいいわけですよ。ヨーロッパだって、田舎に行けばオペラハウスなんてそんなもんなんだから。
池原 オペラブッファをやっているようなところですね。だから落語でもやってもらっていたほうがいいのかなぁ。
井上 私なんかが携わっていて一番問題だと思うのは、やっぱり人気歌手というのは5年前にブッキングしないと予定が取れないんです。だけど新国立劇場だと予算は1年前に出すから、1年前とか半年前にブッキングする。そうなると、いい歌手は絶対に取れないんです。5年後の予算なんていうのは絶対に組み込めないから、そこが一番の問題ですね。たまたまその時に空いている人ということになるから、「誰、それ?」という人になっちゃう。
池原 そうすると客も入らないという悪循環になりますね。そのへんちょっとなんとかならないですかね。
手塚 ここが最大の矛盾だね、1プロダクションやるのに1億円とか2億円かかるものでも、チケットの売り上げだけだと3分の1ぐらいしか回収できない。その後はレコーディングをしたりビデオを売ったり、補助金を全部組み合わせてなんとか成り立たせる。
この座談は2002年正月に行ったものです。