最悪の演奏に最悪の客
知り合いが行った時は今まで観たオペラの中でも最悪中の最悪だったらしくて、伴奏がピアニッシモで始まって、そこに乗ってくるチェロとホルンが合っていなくって、ステージの合唱ともずれている。
それで観客が「ざわっ」となったんだけれど、4小節目くらいに来たときにやっとオーケストラは合って来て、だけどステージの合唱とは最後まで合わなかった。
まさにその合唱が終わりそうになった瞬間に、携帯電話が鳴ったんだって。
池原 最低!
T女史 そういえばサンフランシスコオペラに「ウィリアムテル」を観に行った時に、スイス兵の行進のテーマが始まったら、観客がクスクス笑い出したんです。
井上 「ローンレンジャー」の音楽ですよ。
手塚 日本でも70年代にチャイコフスキーの「悲愴」の3楽章が終わったら、拍手が起こったようなもんだな。
池原 それは無知だからしょうがないと思うけど、いくら自分がテレビで知っている曲だからってクスクス笑うかなと思いますよ。「ローンレンジャー」が頭に浮かんでたのかなあ。
手塚 METなんかに行って思うのは、あそこの観客ってコンサートを聴きに来ているというよりは、ショウか何かを観に来ているという感じだよね。だから序曲をやっている間は荷物あけてガサガサやったりしている。「歌が出てくるまでは何をやっていてもいい」という感じかな。
逆にアリアが終わった後は、拍手がどっと起こって演奏が聴こえなくなる。
池原 オペラに初めて行った友人から聴いた話だけど、アバドの指揮で「トロヴァトーレ」か何かをやったときに、イタリアの国歌と日本の国歌を流したらしくて、アバドが登場した時にイタリア国歌が流れたらみんな起立したんだそうです。友人は、「アバドが入ってきてだけでみんなスタンディングオベーションするなんてすごいなと思った」と言ってました。聞いて大笑いしたんだけど。
それと、ワシントンオペラは、普段は初日だけアメリカ国歌を演奏するんだけど、それが今年はテロ直後にシーズンが始まったせいで、初日だけではなくて、結構何
週間か後になっても国歌を演奏してたんです。それからボルチモアオペラも初日 以外にも国歌を演奏していて、私が観たのは「セビリアの理髪師」だったんだけど、理髪師のチャーノフ以外はキャストもアメリカ人だったので全部出てきて国歌を歌っていて、チャーノフだけ出てこないんですね。それはすごく面白かった。
手塚 どうせだったら、オペラ歌手にアメリカ・ザ・ビューティフルか何か歌ってもらえばいいのに。そっちの方がオペラっぽい。
池原 アメリカ・ザ・ビューティフルは観客が帰るときに流れていって、それはマリオ・ランザの録音でしたね。「ちょっと勘弁してよ」という感じでしたよ。
この座談は2002年正月に行ったものです。