「ワルキューレ」1
運営者 じゃあ今度は、ライトモチーフ(指示動機)の話だけど、「ワルキューレ」で使われているライトモチーフで一番好きなのは何ですか。
手塚 やっぱり最初に好きになったのはジークフリートのモチーフですよ。これはね、間違いなない。
運営者 はじめて出てくるのは、「ワルキューレ」の第3幕ですね。
手塚 ジークリンデがブリュンヒルデに別れを言って、「あなたのお腹の中には、類い希なる英雄が宿っています」ということを打ち明けるときなに出てくるんですよ。それがであとから何回もでてきて、この楽劇の最後にトロンボーンが大音響で印象的に吹きまくるわけです。
運営者 それを聞いた瞬間に、それまでうじうじしていたジークリンデが、あまりにも現金に、「じゃあ、私は強く生きなければならない」と態度を変えるというのが、僕にはどうもね(笑)。
手塚 それでブリュンヒルデが「あなたの味方になりますよ」と言う場面の最後の時に鳴るのが、実は「神々の黄昏」のフィナーレの主題なんです。弦楽器の回転音形から成る「世界の救済の動機」がなるわけ。
運営者 ああ、あれが、全編の最後につながっているわけですね。
手塚 最後の究極的な救済の契機が、ブリュンヒルデが「ジークリンデを助けよう」と思うことによって暗示されるわけ。起きるわけ。ジークリンデがジークフリートを生むことによって世界が救済され、そしてまた結局「指輪」はラインに戻るということを暗示しているわけだね。
ワーグナーがホントに面白いなと思うのは、これを最初にそこで書いたときに、ずと後の「神々の黄昏」の最後にこれを使おうと思って書いたのか、どうなのか。
運営者 それがライトモチーフの発想であって、それを主題として使ったからには、最後に使わざるを得なくなるはずだと思うんです。「ワルキューレ」の作曲(1854-56年)から、「神々の黄昏」の作曲(1874年)の間には、18年間くらい間が空いてるんですよ。でも、ああいう偏執狂的な性格の人間というのは、やはりその時のモチーフを使わずにはいられないんではないかな。彼はかなり周到ですよ。
手塚 でもあの究極の大音響のフィナーレで全く弦楽器で作られただけでやさしく奏でられるモチーフに戻るかね。
運営者 それが作曲家だと僕は思いますね。