「ジークフリート」1
運営者 次に、「ジークフリート」はどこに面白さがありますか。「ジークフリート」はやっぱり……。
手塚 あれは音響的にはすごいよ。第1幕の鍛冶場の画面とか。ホルンがひたすら吹けば気持ちがいいという感じで。ショルティがウィーンフィルを指揮した有名な録音なんか、もうあのウィーンフィルのホルンがヤケクソになって吹いている。でもここまでは音楽自体が充実しているね。
それと較べれば,「神々の黄昏」なんかは、基本的には空虚な音楽だと思う。
運営者 それまでのライトモチーフをつなげれば出来てしまう感じですね。
手塚 そう。とりあえず小室哲哉の世界。過去につくった旋律を全部つなぎ合わせればこういう風になった、という感じ。
運営者 まあそれでも、フィナーレの場面とか、なかなか立派につくっていると思いますけど。音楽的に詳しくない人間は、あれで十分なんですよ。
手塚 「神々の黄昏」の最後のところを、充実した音楽だと思うかどうかは、人によって判断が違うんだけれど、ぼくはすごく空虚な音楽だと思うよ。何か散漫な引用で……。ワーグナーは、決してあの結末自体を信じていなかったと思う。むなしくなったんじゃない?だから「パルシファル」に走ったんだよ。
運営者 あれは走るもんなんですか(笑)。「パルシファル」は精神性ばかり追求していて面白くないんだもん。
手塚 面白いか面白くないかじゃなくて、精神性を追求するという世界に入ったということです。
運営者 わかりますよ。
僕は5年ほど前に、朝比奈隆さんのところに行って、「朝比奈先生はベートーベンとかブラームスがお得意ですが、ワーグナーはいかがですか」と質問したことがあって、「うん、指輪の全曲録音を2回やりました」って言われて、「申し訳ありませんでしたあああああ」と謝ったことがあります。あの人は本当にできた、温かい人なので、「なぜ2回目の録音をしたかというと、1回目の『ジークフリート』がの出来がいまひとつだったから。あれはなかなか難しいよ」とおっしゃってたんです。冷や汗をかきました。
手塚 「ジークフリート」はホントにむつかしんだよ。あなたが「パルシファル」がつまらないって言っていることの本質が、基本的には「ジークフリート」にも現れているわけ。
たぶんね、「パルシファル」はジークフリートのアホさ加減を象徴して、最初から出していると思う。
運営者 ジークフリートにはそういう部分がありますよね。「英雄」とはいえ、とても賢いとは思えない。物事は全て、ブリュンヒルデから教えてもらっている。
でもどうして、それを最初から出す必要があったんですかね。