「ジークフリート」5
運営者 「ラインの黄金」の最後は、明るいけど、これからなにがしかの悲劇が始まる予感がある。
手塚 「ワルキューレ」はね、基本的には日本人が好きなギリシャ悲劇なんだよ。悲劇を仕込んでいる。
運営者 「ここまでも悲劇なんだけど、さらにあるんだよ」というぞくぞく感がありますよね。で、「ジークフリート」の明るさって何なのよ。と思いますが。
手塚 岡本さん、交響曲って4楽章から成るでしょう。
で、一番最初の導入部はアレグロ何とかで、真ん中にアダージョがあって、スケルツォがあって、最後にフィナーレでしょう。
「ラインの黄金」はアレグロ何とかで、「ワルキューレ」がアダージョで、「ジークフリート」はスケルツォで、「神々の黄昏」はフィナーレなんですよ。
それで、本当の意味である種のパターンを徹底的に追及しているのは、この真ん中の2つなんだよね。両脇はやっぱり話を起こそうとしたり、決着させようとしたりして曖昧なんだけど。
運営者 手塚さんやっぱり、「ワルキューレ好き」だから。
手塚 私は基本的に、盲と言われても結構ですから、真ん中のアダージョが一番感動するんだよ。ベートーヴェンの第九も3楽章がいい。
運営者 どうしてアダージョやらスケルツォの味方をするんですか。
手塚 ブルックナーの交響曲は、2楽章と3楽章が対になって初めて成立しているんです。9番以外はそうですよ。
運営者 9番はね、3楽章で見事に完結していると思いますよ。
手塚 あの3楽章の後に何かを書けと言われて、書けたかというと難しいわな。
運営者 見事だと思いますよ、あれは。何も言えないもん。
そうすると、あの「ジークフリート」の一番最後の能天気な明るさは何なんだろう。あれは何なのかと思うんです。
手塚 それはね、「ワルキューレ」が暗く深いシュバルツバルトの森の中にいて、呪術の世界をやっていた。それに対して、「ジークフリート」は、明るい太陽の下で平原でパッパラパーな明るい世界をやった。だから僕は基本的には「ワルキューレ」はアダージョ=「トリスタン」で、「ジークフリート」はスケルツォ=「マイスタージンガー」であると思っています。