「ニュルンベルクのマイスタージンガー」1
運営者 言われてみれば、あれは「マイスタージンガー」ですよね。「マイスタージンガー」よりは毒があるけれど、かなり。
じゃあさあ、ここに「マイスタージンガー」の話を挟みましょうか。手塚さんは「マイスタージンガー」の面白味をどこに感じますか。
手塚 それはやっぱり「ハンス・ザックスのロリコン……」と言ってしまったら身も蓋もないんだけど。
運営者 でもそれがなかったら成立しない話だから仕方ないですね。
手塚 中年男性が女子高生にもてるという世界を、壮大な楽劇として描いたのが「ニュルンベルグのマイスタージンガー」なわけ。
運営者 別にオペラ・ブッファといってもおかしくないから、壮大ではないのでは。長いだけで。
手塚 中年男性の味方なんだよ。つまり白髪が入って、晩年の声が聞こえるようになったおっさんであるにもかかわらず、若い娘に頼られる、それはやっばりそうあってほしいと思っている事ものをやっているわけ。
運営者 だってハンス・ザックスといえばニュルンベルグのマイスターの中で最高峰の楽人なわけでしょう。作詞はできるし、歌を歌えるし。それで女房に先立たれて男やもめであると。
手塚 じゃあ、エヴァが、ワルターとザックスのどちらに本当の意味で究極のエクスタシーを感じていたか。
運営者 エヴァは当然二股かけているわけですよ。
手塚 若い女だからね。肉体的にはワルターなんだけど、精神的にはザックスだと。
で、ザックスは「肉体的にはあの若造には勝てない。だけど自分は精神的にエヴァを征服した」という満足感があって終わってるんだよ、多分。
だから、ザックスを讃える大合唱で終わるんでしょう。
運営者 じゃね、第3幕の第1場で、彼らの前途を祝う形で、騎士ワルターが作った新しい歌の誕生を祝うじゃないですか。
手塚 「お前この歌は、ちょっとエロチック加減が足りないから、もっといやらしく歌いなさい」と言うのはザックスでしょう。つまりザックスが描いた世界の中に、この若い恋人2人がいる、というような中年の男性が抱いている願望を実現させたるのが「マイスタージンガー」の描く世界じゃない。