「トリスタンとイゾルデ」1
手塚 でもこれって精神衛生上よくないよね。それでジャーンって気持ちよく終わる「マイスタージンガー」でその欲求不満を満たしていたわけ。
運営者 じゃあ、「トリスタンとイゾルデ」の話を聞かなきゃ。
手塚 あれは「夜の礼賛」だな。全部夜なんだよ。バレンボイムがやっていた舞台で、最初から最後まで熱にうなされた夢の中という感じで描いているビデオがあったけどね。
運営者 バイロイトのポネルのやつですね。
「トリスタン」が一番人気があるんじゃないかなという感じがするんですけど。
手塚 玄人受けじゃないのかな。前奏曲は知っている人が多いと思うけど、真ん中を聴いている人は少ないのでは。
運営者 何に一番ひかれますか。
手塚 それはやっぱり、陶酔と自己破滅の世界でしょう。
運営者 誰が破滅するんですか。
手塚 みんなだよ、みんな。
運営者 マルケ王も破滅するんですか。
手塚 全員が裏切られて、全員が破滅して、耽美の世界に入っていく。
運営者 第1幕は説明ですよね。第2幕でトリスタンとイゾルデの愛が描かれる。これが圧巻ですよね。
手塚 第2幕は、ロミオとジュリエットの世界を極めて不健康に描いたような。
運営者 やたら長くして。
手塚 僕は、極めて不健全な音楽がずっと鳴っている中に突然入ってくる、ブランゲーネの、「気をつけなさい」みたいな、全音階の音楽が、すごく新鮮に感じて……。だめかね、こういうの(笑)。でもこの辺の手法はリヒャルト・シュトラウスの「サロメ」でも、他がみんな退廃的な不協和音なのに、聖者ヨハナーンの歌だけはきれいな全音階で際立たせるって、同じテクニックを使っている。
それから一番好きなのは、全曲の最後の「愛の死」の場面で弦楽合奏が転調を繰り返しながらどんどん盛り上がるところはいいなと思うけどね。まさにテクニック的には小室哲哉の世界で。聞いている人たちがどんどん高揚するようにできているわけ。そして最後に、こぶしの世界が用意されていて、安室が歌っているような感じの所に行くわけ。何か解説が黛敏郎風だな・・。(笑)