「トリスタンとイゾルデ」2
運営者 歌の聞かせどころはどこですか。5時間もあるのに、主要登場人物はすごく少ないですよね。究極ですよ。
手塚 あれはオペラの歌い手にとっては究極だね。第1幕のイゾルデの歌う部分だけで、「アイーダ」全曲分のアイーダの歌うところよりも小節数が多いんだって。
運営者 それをさらに、尋常ではない長さの2幕分唄うわけでしょう。
手塚 しかも、ワーグナーって基本的に歌が旋律を唄うのでなく、オーケストラが旋律をやっていて、歌が伴奏みたいに裏を歌っているわけ。あれって歌っている人にとっては、もだえるような感じじゃないかと思うよ。リヒャルト・シュトラウスと、ワーグナーは、基本的に歌詞が旋律を歌わないね。体力的にも日本人でイゾルデを歌える人なんて出てこないんじゃないかな。毎日ビフテキ何枚も平気で平らげられるようなんじゃないと……。
運営者 「トリスタン」は麻薬ですからね。ハマるかどうかということで。
手塚 あれは、現代における発禁音楽。これを麻薬と言わずしてなんというか。冒頭のトリスタン動機のえもいわれぬ怪しげな不協和音なんて身悶えしちゃうね。
運営者 あれを5時間聞かせるというのは洗脳だろうと。
手塚 オペラの世界の中で、「トリスタン」に匹敵する麻薬は、リヒャルト・シュトラウスの「サロメ」だろうね。両方ともそこらへんのAVなんかよりはるかに背徳的でエロチック。
運営者 でも、「サロメ」は短いから。一幕物だし。
手塚 だからすごいんじゃん。
運営者 でもあの最後の「7つのヴァールの踊り」って、音楽だけ聞いていると嵌れるけれど、見ているとシラケるものがありますよ。
手塚 ビヤダルみたいなおばさんがおどったらね……。ベーレンスみたいな、とりあえずからだの線もいい歌手がやればいいんじゃない。「見たくない」というのもいるよね。。昔カラヤンが、吹き替えでやったという話も聞いたけれど。踊る直前に歌手と専門のダンサーが入れ替わって本当にストリップをやる……。
運営者 ベーレンスってイタリア物もできたし、過不足ないですよね。
手塚 そういう意味で、懐古趣味になるわけじゃないけど、シュワルツコプも魅力的だったし……。ちょっとおばさん趣味かな。