「神々の黄昏」
運営者 それでやっと、「神々の黄昏」にたどり着いたわけですが。
手塚 あれは実はあまり好きじゃないんでね。音楽があまりにも説明的すぎるんだよ。なんていうかその、ワーグナーの本当の魅力である神々しさとか、神秘性がなくて、説明的。イマジネーションが枯渇しているというか。
運営者 だけど、例えば「ジークフリートの死」なんてのは、オリジナルじゃないですか。
手塚 あそこはいいけどね。あの瞬間はいいかもしれないけど、でも基本的には、劇を進めるために基本的にいろんなモチーフをグチャグチャに並べて。
運営者 整理がついてないですよね。
手塚 昔のそごうの売場とか、ダイエーみたいな、なんでもありの世界でばーっと並べていて、高島屋や三越のような品格がないと思うよね。
運営者 後、アルベリヒの息子のハーゲンが出てくるじゃないですか。彼はいまひとつ、キャラクターとしてはよくわからないですよ。
手塚 やっぱり狂言回しですよね。ハーゲンとギュンターは、ダウンタウンやとんねるずのような組み合わせで。
運営者 そんなにおもしろくないですよね。
僕、ベルリンで見たんだけど、ドイツ人は結局「ジークフリートの死」が来るのひたすら待っているという感じがしましたよ。
手塚 やっぱり「滅びの美学」なんだな。
運営者 ベルリンの劇場ってすごくでっかいんです。3000人以上入っているような客席が、ジークフリートの死の瞬間、全員が舞台に異常に集中しているんですよ。その気を感じて、「こいつらなんて怖い奴等なんだろう」と思いましてね。
手塚 「滅びの美学」って、特攻隊に近いんじゃない。
運営者 「こいつらやっぱりナチスやるよな」と実感しましたよ、悪いけど。これをベルリンで見るという経験は、なかなか恐ろしいものがありました。
手塚 それはわかるような気がするけどね。杉良太郎ショウに来ているおばさんたちを見て怖いと思うような感じ。
運営者 ウイーンで、カレーラスの応援に来ているようなおばちゃんたちがいたけれど、あれは逆に怖くないですよ。ベルリンで「ジークフリートの死」を見ていた彼らというのは、怖いですよ。
あと、ゲッツ・フリードリヒというのは天才だと思いましたね。フィナーレの演出って驚異的ですよ。すごい。パッパッパと舞台転換があるのはどこも一緒じゃないですか。だけど、その中に彼らが引き起こした戦争の記憶を、展開するんですよ、あっと言う間に。すごい早さで。
おー、世の中には、こんなすごいものがあるのかと思いましたよ。これはもう、演出の頂点だと思います。